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『Eternal Weaving』振付徹底解説

スタライ7th開催おめでとうございます!早速幕張初日公演に参加してきたのですが、今回も最高でした…!!

いつも通りネタバレ含む感想は来週配信を見つつ書く予定ですが、開催記念として今回セトリに含まれているValkyrieの『Eternal Weaving』について、以前アンソロジーに寄稿させていただいた文章を再録させていただきます(主催様の許可はいただいております)。

www.pixiv.net

こちらのアンソロジー、とても濃い内容で読み応えたっぷりです。受注にて購入できるようですので興味のある方はぜひ…!

私が寄稿させていただいたのは、『Eternal Weaving』のMVからみたダンスのお話です。スタライバージョンとはセットや曲の尺が異なりますが、スタライを楽しむ一助になりましたら嬉しいです。

 

MVのリンク貼っておきます。

youtu.be

 

 

『Eternal Weaving』振付徹底解説

 

 本記事では、『あんさんぶるスターズ!!』MV、『Valkyrie』の『Eternal Weaving』について、そのダンスに着目して解説する。本記事における〈分:秒〉表記は全てYoutubeの『Happy Elements株式会社』チャンネルに投稿されている該当曲の動画の再生時間を指す。また、本記事では『Eternal Weaving』の他に同ユニットの楽曲である『魅惑劇』『Memoire Antique』『Last Lament』『今宵月の館にて』にも言及するが、上記はすべてゲームサイズのMVを参考にしており、『あんさんぶるスターズ!DREAM LIVE』で披露されたフルサイズ版に関しては考慮しないものとする。

 

 ダンス作品を紐解くにあたってポイントとなる要素は、「音楽」「構成」「振付」の三つであると筆者は考える。今回は上記の三要素についてひとつずつ解説していく。

 といっても、この場合の「音楽」は、通常のダンス作品とは少々異なる位置づけにあたる。何故なら、『Valkyrie』はダンサーではなくアイドルであり、アイドルの一番の仕事は歌を、つまり音楽を届けることだからである。ダンスは音楽をより効果的に魅せるための道具であり、音楽に確実に付随していなくてはならない。「あえて音楽とまったく関係のない動きをする」というダンスは存在するが、アイドルがそれをしてしまうと肝心の歌が観客に届かなくなってしまうため、悪手であると考えられる。

 上記の理由から、本作品における「音楽」の役割は、「作品の芯」であるといえる。ダンス作品を作るにあたって最初に何から決めるかは作成者やジャンルによって様々だが、今回はまず音楽があり、そこから構成や振付が付けられていったと考えて良いだろう。

 次に「構成」についてだが、「構成」とはつまり何のことかを先に説明しておく。

 ダンス作品における「構成」は、より厳密にいうと「舞台構成」のことである。ダンサーの人数と配置、振りと振りの繋ぎ方、照明、効果音、道具……等、振付以外の部分をまとめて「構成」と呼んでいる。

 そして、この構成を関係者が把握するために、「構成表」というものを用いることがある。参考までに、『Eternal Weaving』冒頭一分の構成表を記す。

タイム

動き

照明

0:00

 ~

0:12

M1

二人並んでポーズを取り、静止した状態で板付き

音と同時に赤のスポットライトとホリの明かりin

シルエットが見えるくらい

0:13

 ~

0:23

 

入れ違いつつイントロを踊る

バックライト点灯

顔が見える明るさ

0:23

 

宗が左手を上げる

腕の動きに合わせて一瞬強めの赤い光

0:23

 ~

0:42

 

みかソロパート

前後変わらず横移動

強めの光から徐々にイントロの明かりへ

バックの六角形のライトのみ音に合わせ波打つ

 

0:43

 ~

0:57

 

宗ソロパート

半円を描いて移動し、宗が上手前、みかが下手後ろで踊る

赤の彩度が増した強い光

六角形ライトの波打ち激しくなる

 

 構成表は基本的に照明の切り替わりを軸に展開される。こうして図表化してみると、本作品では一分間の間に五回照明が切り替わっていることがわかる。MVという特性上カメラワークによって見えない部分も多いため、本当はもっと多いかもしれない。

(注:本来の構成表では具体的な動きを絵にして示すことが多いが、紙面の都合上割愛した)

 また、照明以外に構成として重要視されるのが、ダンサーの動かし方である。どんなに良い振付でも、これが上手くいかないことには作品としての完成度は上がらない。そしてここで鍵を握るのが「ダンサーの人数」と「ダンサーの配置」となる。

 本作品の場合、「ダンサーの人数」について言及することはない。『Valkyrie』の斎宮宗(以下宗)と影片みか(以下みか)の二人。以上だ。さらに、アイドルの作品である以上、どちらかがある場面で舞台袖に捌けるなどということもない。二人は一曲分の間常にステージに立ち続け、踊り続けることになっている。

 次に「ダンサーの配置」についてだが、『Valkyrie』は二人組という特性上、横に並んでいることが多く見受けられる。また、二人の距離は基本的に近めである。『Eternal Weaving』が披露されたステージは狭い円形のため、後者は特に顕著に見ることができる。そして、二人の立ち位置はシンメトリーであることが圧倒的に多い。本作では斜めに並んだシンメトリーが印象に残る形で頻繁に使われており、これは円形ステージを効果的に見せる一つの要因となっている。斜めに至る動きの導線も、円を描くものが多い。総じて、今回の構成は円形のステージを如何に生かすかを重視して作られたものだと感じた。

 最後に「振付」について記す。「振付」はダンス作品において一番わかりやすい要素であるが、それゆえに個性が出やすく、作品の評価を左右する。

 「振付」とは、パーツの組み合わせであると筆者は考えている。いくつかの動き、例えば右手を上に上げるとか左手を一歩踏み出すとか、あるいはもっと専門的な用語を使うとパ・ド・ブレをするとかピルエットを回るだとかがある。無数にある細分化された動きを選び、組み合わせ、音楽や構成の中にはめ込んでいく。その作業を「振付」と呼ぶのだと思っている。因みにダンスのジャンルというのは、動きを選ぶ際にどのカテゴリから選んだかという観点で判別される。『Valkyrie』のダンスはモダンバレエとモダンダンスの要素が含まれていると思われる。

 『Valkyrie』の振付は、宗が担当しているものとみかが担当しているものがあり、その判別は実は容易にできる。何故なら、二人の振付にはそれぞれ個性が色濃くにじみ出ているからだ。以降宗による振付を「宗振り」、みかによる振付を「みか振り」と呼ぶことにする。

 まず宗振りの特徴として、背中がほとんど真っ直ぐであることが挙げられる。頭から一本の糸で吊り下げられているかのように姿勢が良く、背中や腰を丸めることはほとんどない。下を向くのは首から上のみである。また、宗振りはとにかく音に正確だ。特に歌っている間の振りは、主旋律に合わせにいく傾向がある。歌のリズムに動きを合わせ、歌の強弱に動きの強弱も合わせる。非常に基本的なテクニックだが、音楽と動きが綺麗に調和するため、観客は高い満足感を得ることができる。

他に細かい点を挙げるとするならば、腕は基本的に伸ばしきる、その場に留まって踊ることが多い、手首と肘にアクセントを置きがち、等があるが、どれも彼の性格を考えると納得できるのではないかと思う。以上の宗振りの特徴は『魅惑劇』や『Memoire Antique』のMVで見ることができるので、興味が湧いたらぜひ注意して見ていただきたい。

 次にみか振りの特徴についてだが、みかは宗の指導を受けているので、基本的な動きのボキャブラリーはかなり宗の影響を受けている。しかしながら、みか的なニュアンスを大きく感じられる部分は勿論存在する。

 まず宗振りの特徴として示した背中の使い方についてだが、みかは上半身をかなりアグレッシブに動かすことを好むようである。『今宵月の館にて』の〈0:45~0:52〉の短いフレーズだけでも、丸め、反らし、捻る動きが多々組み込まれていることがわかる。ストーリー内でみかの創作であると断言されている『Eternal Weaving』においてもこの作風は色濃く出ており、特に〈0:43~0:46〉や〈0:57~1:00〉の部分がわかりやすい。

 音の使い方は宗より繊細で、主旋律を拾いつつも裏の音を上手く拾っている印象がある。所謂「音ハメ」というもので、あえて直前の動きは音を無視して作り、本当に見せたい、聞かせたい音の時のみぴたっと動きを合わせる手法だ。『Eternal Weaving』では〈1:01〉の瞬間に音ハメがきまっている。常に正確無比な宗振りにはない、みからしい特徴である。

 以上の特徴を踏まえて『Valkyrie』のMVを見ていくと、どの楽曲が誰の振付なのかが自ずと見えてくる。筆者個人としては、『魅惑劇』『Memoire Antique』は宗の振付、『今宵月の館にて』はみかのソロ部分だけみか自身の振付、『Last Lament』はみかのエッセンスを汲み取った宗による振付だと考えている。

 本記事の主題である『Eternal Weaving』だが、先に述べた通りこちらはみかによる作品であるとストーリーの中で示されている。振付を見てもそれは明らかで、みかが宗から学んだものと、みか自身から生まれ育ったものが融合した踊りになっている。

〈冒頭~0:42〉のあたりは、どちらかというと宗の作風に近い。腕を音に合わせてはっきりと動かす直線的な振付だ。しかし、〈0:43~0:50〉ではがらっと質が変わり、二人が全く違う複雑な動き方をする。ここで見事なのは〈0:44~0:45〉の一瞬で、客席側にいる宗が半回転すると同時に、後ろのみかも違うステップでの回転をするところである。細かい部分は違ってもタイミングと種類が同じ動きをすることにより、急にバラバラに動き始めたにも関わらず一体感を損なうことがない。みかは二連続で回転をしているが、二回目にピケターン(ピケ・アン・ディ・ダン)をすることにより、一回目の宗と同じ形をなぞることになっているのも興味深いところである。他にもこの一秒には様々な技巧が詰め込まれている。

上述したシーンと対になっているのが〈0:57~1:00〉で、ここでも二人がバラバラの動きをするが、そこに関連性は見受けられない。「歪に捻れた」という歌詞の通り、動きも捻れているし二人の関係も捻れている。みかはこのように歌詞からそのまま振りを作る傾向が強く、直後の「辿る度」でも自分の指先を辿る振付にしている。

台詞部分を終えた最後のサビに当たる〈1:27~〉はほとんどが完璧なシンメトリーになっている。顔の角度から腕の高さまで一矢乱れぬ揃い方は『Valkyrie』の真骨頂だ。ここまでに至る振付は今までの作品ではあまり見られなかった動きや構成だったが、最後に「いつもの『Valkyrie』」を持ってくることで、より洗練されたものになったのではないだろうか。更にこのサビの振付ははっきりとした宗のニュアンスと、柔らかく可動域の広いみかの動きが見事に融合されており、これが今の『Valkyrie』なのだという今作一番の主張を感じられた。

二人分の個性が混ざり合い、『Valkyrie』は新たな可能性の扉を開いたと言えるだろう。

 以上で『Eternal Weaving』の振付解説を終わる。本作で限りなく正解に近い芸術を見せてくれた『Valkyrie』の今後に期待したい。